電車

夕方5時半過ぎ、買取車の引き取りのため無人駅プラットフォームに立つと、
寒風は着ていた黒のジーンズをすり抜けて、足元まで食い込みます。
シーンとした静けさに包まれた無人駅で電車を待つ人は、
たった二人です。

じっとしていられない寒さにしびれを切らし、
コンクリート製のプラットフォームをウロウロし、
たいした用事もないのに電話したりしているうちに、
山形駅行きの鈍行列車はやって来ました。

次の停車駅の高畠駅で席が空き、
良く暖房が効いてヌクヌクしたシートに座ります。

山形新幹線も停まる赤湯駅から、
目鼻立ちのはっきりした30台半ばに見えるスッピンの女性が乗って、
席に腰かけるや否やバッグを開き、化粧を始めました。

クリームみたいな液を手に取り、
念入りに顔にすり込んでからファンデーションのパフをパタパタやっています。
素早い手つきでアイラインを引き、眉毛を鉛筆みたいなペンでなぞり、
まつげにマスカラをつけたら、
化粧ポーチから口紅を取り出しそれを塗ると、
濃い目のベージュ色のくちびるになっています。

またマスカラみたいなものを手に取って、
目じりにキラキラ光るラメのようなパール色をまぶしています。
そのあと化粧ポーチから取り出した、
メンソレータムの入った容器のようなものに人差し指を突っ込み、
白いハンネリ状のクリームを髪の毛にすり込んでいます。
ベタッーとしていた濃い栗色のロングヘアーは、
間もなくフワッとボリューム感のある髪型に変化しました。

くたびれた感じに見えた、くっきりした顔立ちのスッピン顔は、
終点の山形駅に着くまでの約20分間で、
水商売風の派手な顔立ちの美人さんになりました。

電車の中で退屈しのぎに読もうとリュックに入れた単行本の出番もなく、
スッピン美人の見事な変身ぶりに見とれていたら終点の山形駅に、
いつの間にか着いていました。

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